「初めての麻辣湯で、汗だくになった夜」
「今度、麻辣湯食べに行きません?」
営業先で知り合った30代の彼女から、そんなふうに誘われた。
正直、麻辣湯は初めてだった。
店に入ると、彼女は慣れた様子で具材を選んでいく。
「辛いの大丈夫ですか?」
「まあ、たぶん……」
強がって答えたものの、出てきたスープを一口飲んだ瞬間、思った。
――これ、結構辛い。
しばらくすると額に汗が浮かんできた。
「大丈夫ですか?」
彼女が笑いながら、ティッシュを差し出してくる。
「いや、思ったより本格的だね(笑)」
そう言いながらも、箸は止まらない。
彼女はそんな僕を見て、楽しそうに笑っている。
辛さのせいなのか、彼女と二人で食べているせいなのか。
いつも営業先で話しているときとは、少し違う距離感。
気づけば、料理よりも彼女の笑顔のほうが気になっていた。
「また食べに来ましょうよ」
店を出る頃には、二人とも少し汗ばんでいた。
初めての麻辣湯。
でも、たぶん忘れられないのは――
辛さのほうじゃなかった。